ポンコツ女の大行進

いにしえの若手俳優ヲタクの昔話

レンタルビデオ屋さんのお仕事

仕事について悩む毎日。
仕事が辛いから体調が治らないのか、体調が治らないから仕事が辛いのかはよくわからないけど、年が明けてからちょっとした風邪やちょっとした胃痛が長引く長引く。
本当に楽しくなくて、いや、仕事が楽しいと思ってる人なんて一部だと思うんだけど、辛いとつまんないの紙一重と言うか。入社して数ヶ月で希望とは違う部署に異動になって、事務職で入社したのに営業職をやっていると言う不本意さがどうしても体の中から抜けてくれなくて、何をするのにもやる気が出ない。どうしたものか。

仕事が辛くなった時、いつも前職の事を思い出す。今も働いている後輩たちとご飯を食べに行って愚痴を聞く度に、あー戻りたいなぁってウズウズする。大好きな職場で大好きな仕事だったけど将来が見えて来なくて自らの意思で辞めたのに、未練が半端なくて。好きな物に囲まれるってだけである程度モチベーションって保てるものなんだなぁとつくづく感じる。

違うエントリーの時にも話したけど、わたしは7年半某レンタルビデオ店で働いていた。高校時代は近所のドラッグストアでバイトをしていて、大学の授業があるとその店のシフトに対応出来なくなるので卒業と同時に退職。大学生になったら高校生不可なとこでも働けるぞー!とウキウキしたもののなかなか新しいバイト先が決まらず、漫画が好きだったわたしはブックオフに落ちた日、ブックオフより数十円時給が安かった行きつけのレンタルビデオ屋さんのバイトに応募した。
面接の時に聞かれた事はほとんど覚えてないけど「髪の毛が少し明るいんだけどもうちょっと暗く出来る?」って聞かれたのは覚えてる。「もちろんです!」と返事をしたものの特に直さずに初出勤。なめた18歳だ。その後も何も言われなかったからそのままほぼ金髪みたいな髪で仕事をしてたんだけど、今でも仲良くしてもらっている先輩から「あんた入って来た時なんであんな金髪採用したのって皆超文句言ってたよ」って教えてもらった。どうやら陰口を叩かれていたらしい。

レンタルビデオ屋さんの仕事は大体皆がイメージしてる通りの業務内容。レンタル入荷してきた商品の入荷作業、貸出レジ、戻ってきた商品を棚に戻す作業。
元々映画も音楽も漫画も大好きだったから、好きなものに囲まれて仕事が出来る環境が最高だった。仕事中は最新ヒット曲をずっと聞いてられるし、レンタル入荷情報もいち早く入って来るし、お店によって違うだろうけど社割を使うと数十円で商品を借りる事が出来た。
何年も在籍していると、どの商品がどこの棚の何段目にあるのかを瞬時に判断出来るようになる。戻ってきた商品を棚に返す(うちの店ではリターンと呼んでた)作業がものすごく得意だった。何年も前からいる先輩やパートさんより速かった。返却棚が商品であふれかえってる時はわたしは救世主のように崇められとても気持ちがよかった。お客さんに商品の場所や在庫を聞かれた時も、カウンターで検索をしなくても場所をご案内出来たり何年前に廃盤になってしまって取扱いがないと言う事を瞬時にお伝え出来る事も気持ちがよかった。お客さんから「さすが店員さんだね!」って褒められるのも好きだったし、おすすめの映画を聞かれて借りてくれたお客さんが「この前おすすめしてくれたやつすごくよかったよ、次は何を見ればいい?」って毎回わたしのお気に入りの映画を借りていってくれる事もとても嬉しかった。
おすすめPOPを描く事も好きだった。おすすめのDVDに勝手にPOPをくっつけてそれを借りて貰える事が嬉しかった。わたしがPOP描いたりしているのを見て上司がわたし専用のラックを与えてくれたりもした。季節やその時の劇場公開作品に合わせてテーマを決めておすすめの映画を並べて1つ1つにPOPを描いた。学生のわたしにそんな事を任せてくれるあの店がわたしは大好きだった。

勿論楽しい事ばかりでなく、接客業につきものなクレーム処理もあったよ。それで泣かされた事も沢山あるし。
一番多いクレームは「借りたDVDが見られない」「借りていったものと中身が違う」の2つだったかな。DVDが途中止まって見られないのはディスクの傷のせいでもあるしデッキとの相性のせいもあるから100%防ぐ事は出来ない。だから文句を言われても何も改善しようがない部分もある。ただ、借りていったものと中身が違う事に関しては、前の人が返却したタイミングで、そのディスクをアルコール殺菌するタイミングで、棚に戻すタイミングで、次の人に貸し出すタイミングで、誰かが気付けば食い止める事が出来るミスだ。「明日は休みだからこのアニメ10巻まで借りて一気見しよ!」って借りてきたアニメの3巻がなくて2巻が2枚あったらどうやってもテンション下がるよね?わたしだってそうだ。で、お店に言ったら3巻は貸し出し中で・・って。そりゃふざけるなってなるよね。わたしがお客さんの立場だったら一番イラつくミスはこれかなぁと思う。

理不尽シリーズになると「この映画つまんなかったから金返して」とか。知るか。「こんなつまんない商品置いてるこのお店が悪いだろ」って。アホか。ありえないクレームだと思うけどたまにあるんだよ本当に。海外ドラマも1stシーズン一気に借りてって1巻見たらつまんなかったから残りの巻見るのやめたから返金してとか。すごいな日本。
あと、延滞してるのは自分の責任なのに逆ギレしてくる人。「普通延滞してたら電話で教えてくれるだろ?」って。まぁうちも3日以上延滞してたら忘れてるのかと思って電話してるんだけど、1日でそれやってたら件数も半端ないし、電話したらしたで「わかってるからわざわざかけてくんな」ってキレる人もいるし。
あと、母親とか奥さんとか彼女のカードでAV借りるのもやめた方がいい。基本的に延滞したら本人に電話が行くからバレる。明らかに本人が借りたんじゃないよなーって思いながらタイトル濁すと本人に教えてくれって怒られて、教えたら教えたでなんで言うんだよって男側にキレられるし。バレたらまずいもの借りるのに人の名義使う方がどうかしてるんだ。

業務内容もわたしは好きだったけど、人間関係にも本当に恵まれていたなぁと思う。と言うか、わたしはバイト先も就職先も含めてあんまり人間関係に悩んだ事がないかも。どうにもこうにもならなくて悩んでいる今の職場も人間関係だけはクリーンで先輩も上司も皆わたしは大好きだ(だから尚更辞める決断が出来ないんだけど)。
レンタルビデオ屋は社員の異動が早くて、店長は7年半で多分10回くらい変わった。でもそれだけ長くいると1回異動になった店長が戻ってきたりして面白い。未成年だったわたししか知らない店長が5年後に戻ってきて立派になったなって新しい仕事をくれたり。24時間営業の店なので深夜に出勤してきたり明け方に退勤したり皆体はボロボロだったけど体力とモチベーションだけは高かった。皆「お金を使う時間がないから気付いたら10万の靴とか買ってる」とか死んだ目で言ってた。
店長・社員・一時的なヘルプの本部スタッフ・パートさん・バイト全部合わせると、多分在籍期間中100人近い人数と一緒に仕事をした。勿論店長や社員の中にどうしてもウマが合わない人もいた。前の店長からわたしの長所としてものすごく褒められた所を後任の店長に直した方がいいとか言われた事もあったりした。パートさんの中にもわたしが若いってだけで目の敵にしてくる超怖い人もいた。
それでも、出勤するのが嫌だった程一緒に仕事したくなかった人を挙げてみて、と言われても多分片手で足りる。それくらい、わたしはあそこで働くスタッフの人たちが本当に大好きだった。
24時間営業の店舗だったのでスタッフの数は常に30人くらいいた。下は18歳、上は60歳くらいまで。7~8割は女性だった。勿論単なるバイト・単なる生活費稼ぎの為にやっていた人もいたけど皆社員じゃないのに意識が高かった。別に求められてないのにどうやったら売上や回転率が上がるかを考えてレイアウトを変えたり入荷する商品の選定に口を出したりしていた。うちの店舗は各店舗の社員たちから「皆意思を持ちすぎてて働きづらい、でも本当にしっかりしてるから一緒に頑張れたら最高の店が出来る」って言われていた。良くも悪くも、たかがパート、たかがバイトなのに、お店を良くするためなら社員の方針にたてつく。そんな風潮があった。
パートさんたち。店舗オープンから20年くらいいるベテランさんとは本気でぶつかって喧嘩した事もあるし、親にも言えない将来の悩みを真剣に聞いてくれて泣いてくれたし、お客さんからの理不尽な罵声を浴びてるわたしを守ってくれた。
先輩たちは、「たかがバイトなのに熱くなっちゃってww」って思ってた入店当初のわたしの仕事に対する姿勢を徹底的に変えてくれた。別に変えようとしていた訳ではないけど、下で働いているうちにそれじゃダメなんだって自然に思わせてくれるような人が多かった。就職して次々に上が抜けていってわたしが学生組の一番上になる時、同じ事を後輩にしていても全然後輩がなびいてくれなくて相談したら、その子たちがおかしいんじゃなくてあんたが出来た後輩だっただけだよって言ってくれた。わたしを含めてもう誰もお店には残ってないけど未だに集まって真剣な恋愛相談や人生相談をしてもらったり合コンに連れてってくれたりするずっとずっとわたしの大好きな先輩たち。
後輩たち。最年少で可愛がられたわたしの時代はあっという間に終わった。10代の大学生を可愛がっているパートさんたちにわたしだって10代の可愛い時あったでしょ!!と主張してもあんたの可愛かった頃なんてないよって言われる。酷い。わたしがパートさんや先輩たちから受けた意識高い系()の教育はわたしより下の世代にはなかなか通じなかった。店への愛や情熱はあったけど、それを上手く伝える術を持っていなかったわたしは後輩たちからただの怖い先輩だと思われてた。なかなかすぐに懐いて貰えなかったけど、わたしが怖い訳じゃなくてただ教えるのが下手くそな先輩だってわかって貰えるとそこからは本当に皆懐いてくれて、頼ってくれた。一緒に働いてた後輩の中の最年少がこの春から社会人になった。大学入学と同時に働き始めたその子はヲタクで人見知りで小心者で、初めてレジに立たせた時に緊張から泣いた。数日後のリベンジでも泣いた。すぐに辞めちゃうだろうなぁと思ったけど立派に4年間働き続けて、最後は学生組のリーダーになっていた。本当にどう教えたらいいのか悩みに悩んだ後輩だったけど、ヲタクと言う共通点もあってか今では後輩の中では3番目くらいに仲のいい仲間。

仕事と言うのは嫌な事、好きじゃない事を無理やりやって、その我慢と引き換えにお金を貰う行為だと思っていた。今の仕事はまさにそうなってしまっている。でもあのお店での7年半は違かった。好きな映画と音楽と漫画とスタッフに囲まれる毎日は、わたしにとって、ただの金稼ぎの手段ではなかった。
やっぱり「好き」の力ってすごいと思う。よく好きを仕事に、って話がある。たかが学生時代のバイトだから好きを仕事にって程大それたものではないけど、あそこで働いている人で映画やDVDや漫画が嫌いな人って絶対にいない。何かしらが好きだから面接を受けに来てた。結果、必然的にどこかに特化したヲタクが集結してた。アニヲタが圧倒的に多かったけどジャニヲタも多かったしお笑いヲタやゲームヲタ、主婦の中には月1で韓国に行く程の熱狂的韓流ヲタもいた。俳優ヲタは・・若干かじってる後輩を抜かしたらわたし1人だったなぁ。寂しかったなぁ。
DVDや漫画の貸し借りは勿論、タイムカードを切ってあがってからバックルームで2時間も3時間もゲーム対戦をしたり追っかけ論を熱く語ったりする事も多かった。皆の好きが沢山つまった情熱のある職場だった。


わたしはあの会社が好きだった訳じゃなくてあのお店が好きだった。社員にならないかと言う打診もあったけど、社員になったら北海道から沖縄までどこの店舗に飛ばされるかわからない。同じ仕事は続けられるかもしれないけどこの店舗で働ける可能性は店舗数から考えると0.1%以下になってしまう。それを想像してわたしは退職と言う選択をした。
でも転職して1年以上が経って、業界も職種も全く違うこの状況になって、あの時あの会社に就職していたらこんなにくすぶらずにもっといきいき仕事が出来ていたのかなぁってちょっと考える事がある。まぁどんなにリーダー職をやらせて貰っていてもわたしはただのバイトだったし、その状況と正社員じゃ環境とか責任感も勿論全然変わるんだけど。

あー、レンタルビデオ屋さんでお仕事がしたい。広いフロアで八百屋さんみたいな大きな声でいらっしゃいませって言いながらいくら時間があっても仕事が終わらないくらい忙しくしながらフロアで流れる映画の予告の福士蒼汰の声に癒される職場でお仕事がしたい。

働くって、なんだろう???